p38δキナーゼ阻害剤、自らのポケットを変形させ選択性を獲得

p38 delta kinasekinase inhibitor selectivityinduced fitallosteric pocketstructure-based designcancer target
  • Seidlerらの研究チームは、がんに関与するMAPキナーゼp38δ(デルタ)を標的とする低分子阻害剤を開発し、その結合機構をAngewandte Chemie International Editionに報告した。
  • 構造解析により、この阻害剤はキナーゼのATP結合ポケット内にある柔軟なループと当初立体的に衝突することが判明した。通常であればこの衝突は結合を妨げるはずである。
  • ところが阻害剤はループを排除するのではなく、その立体構造を変化させ、自らを取り囲むように折り畳ませることで、通常にない密着した「自己封入型」の結合様式を作り出した。
  • 著者らは、この誘導適合によるポケット再構築を、静的なポケットに合わせて分子を設計する従来の構造ベース設計とは異なる、キナーゼ選択性を得るための新しい経路として提示している。
  • この知見は、立体的な衝突を避けるのではなく、ポケットの柔軟性を積極的に利用することが、今後のキナーゼ標的薬設計における選択性向上の戦略になり得ることを示唆している。
💡 ポイント

立体的な衝突が「欠陥」ではなく「武器」になった、というのがまず唸らされる点だ。ATPポケットを固定された鋳型として扱い、そこにリガンドを合わせ込むのが普通の発想なのに、今回はループがインヒビターを包み込むように折れ曲がり、"邪魔な"衝突がそのまま選択性の足がかりになっている。これはロック・アンド・キー的な発想を根本からひっくり返す話だ。 選択性の観点でも新しい手札だと思う。みんなヒンジ領域の微調整やDFG-out、アロステリックポケットで選択性を狙ってきたが、誘導的な自己包接はまったく別の軸だ。他のキナーゼプログラムにも応用したくなる。 ただ懐疑的にもなる。これは意図的に設計できるものなのか、それともこの一系列で偶然当たって、結晶構造が出た後に理屈をつけただけなのか。ポケットの再構築を再現可能に狙えるなら大きいが、一発限りの誘導適合エピソードなら良い論文止まりだ。 あとp38δはp38αに比べて薬づけが進んでいないターゲットなので、ここでの新しい選択性戦略には実際の伸びしろがある。

Thinking Outside the Binding Site: A Self‐Encapsulating Kinase Inhibitor Remodels Its Pocket to Achieve Selectivity ↗

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